世の中の大抵の事は大したことない

なまけものが書きます

モヤモヤするけどわかってあげないといけないこと

去年の11月、フネさんが転んで圧迫骨折してしまいました。お年寄りに多い圧迫骨折って、調べたら骨粗鬆症が原因みたいですね。いわゆる普通のポキッと折れる骨折とは違って加齢によって脆くなった骨が、外的内的刺激で圧迫されてつぶされて折れる事をいうみたいです。場合によっては気付かないうちにだんだんと圧迫されて酷くなる事もあるんだそうな。

フネさんの場合は転んだ時の衝撃で折れてしまって動けない状態だったのですぐに整形外科に行って、その後は通いやすいということでお友達に紹介された近所の接骨院にしばらく通っていました。

恥ずかしながら、私フネさんがケガをしたことをしばらく知りませんでした。で、私がそれを知ったのがケガをしてから2週間近く経ってから。もうビックリ。掘りごたつに腰掛ける格好で壁に斜めにぐったりと寄りかかるフネさんはとても弱って歳を取って見えました。

それからはしばらく、私がほぼ毎日フネさんを病院に連れて行ってたのですが、一向に良くなる気配がなく、お医者さんに何を相談しても、「これはしばらくかかりますよ。でも2ヶ月もすれば歩けるようになりますから。」としか言われない。しかも良くなるどころかますます痛みが強くなると訴えるフネさんは、お医者さんに対して不信感を募らせ、すっかり自信をなくして弱気になってしまいました。

これはまずいと、私が通っている接骨院の先生に相談して診てもらうことにしました。
ちょうどその頃ギックリ腰をやっちゃった私がものの3日ほどで普通に歩けるようになったのを間近に見ていたフネさんもすっかり乗り気で、それから一緒に通うことになりました。するとこれがみるみるうちに回復していって、今ではなんとか1人で家の中を移動出来るまでになりました。


……というのがケガをしてから今までの流れ。
これだけのお話だと、『あー、大変だったね。』で終わってしまいますが、実は私がケガを知ってからずっと胸の中でモヤモヤしていたことがあったんです。


フネさんはなんと言うか、お嬢様育ちのところがありまして、少し世間ズレしていると言うか、考え方が甘いというか、そういうところがあるんですね。
しかも元々肩こりも腰痛も全く無縁の健康体で、故に今回のこの一件が精神的にもかなり堪えたみたいなんです。まぁ当たり前ですよ。前にも自転車で当てられて腕折って入院したこともありましたけど、今回はなんたって全く動けない訳ですから。

お年寄りがケガを負って動けなくなったのをきっかけに寝たきりになっちゃったってよく聞く話じゃないですか。フネさんもずっと「痛い痛い」と言って壁に斜めに寄りかかったきり、トイレ以外はずっとその状態で1日を過ごしていたわけですよ。

で、お医者さんに行くのにちょっと車まで移動するとはぁはぁと息を切らして死にそうな顔をするんです。ま、ケガをしたてなら仕方ないですけど、それがずっとそんな感じで。

普通ならそんな状態を見たら心配になって『辛いんだな。かわいそうだな』と思うのかもしれませんが、私はつい、『いやいやいや、それは大げさだろ。』と思っちゃったわけです。と、言うのも、私の実の親のピン子さんは先天的な股関節の障害があって普通に歩くのも辛い状態だったんです。

前にもちょろっと言いましたが、私が10才の時に父親を亡くしてからずっと痛い足を引きずって生活のために苦労して働いてくれました。それでも私達の前では辛いところは見せず、夜寝静まった頃いつも「痛い痛い」って言いながら泣いてたんです。

私は幼い頃からそんなピン子さんを見て育ってますから、つい、ついね、身の回りの事を全部波平さんにやってもらいながら一日中動かずにいるフネさんを見て『甘ったれんなよ』と思ってしまったんですよ。なんだか自分で良くなろうとする意思が、全く見えなかったんです。

それはうちの大魔王(フネさんの息子)も思っていたみたいで「全く!周りが甘やかしすぎなんだよ!」って、治療が進んである程度は動けるはずなのにいまだ動こうとしないフネさんについて不満をぶつけていました。


全治2ヶ月と言われてからすでに3ヶ月以上が過ぎ、一体フネさんはどこまで回復する気でいるのか?自分の足で立って外を歩けるようになりたくないのか?私もずっと不満に思ってました。

それである日接骨院の先生に聞いてみました。
「これだけ動けるようになったのにいまだに一日中座って過ごしてるんです。家の事も波平さんと一緒に少しずつやったりできないですかね?」って。
すると先生が言いました。


「今ね、折れてしまった骨が曲がっている状態でまだ不安定です。それでふとした拍子に痛みが出るのでしょう。曲がった骨はもう元には戻りません。今この状態で家事をするのは正直無理です。ただ曲がった状態でも骨が固まってしまえば痛みは治まります。その状態で自分の力で立てるように新しい自分の重心を見つけなければなりません。まずは自分の重心を探して支えがなくても立てるようにしましょう。次回からそのためのリハビリを始めてみますか?」


私はその言葉を聞いてはっと気付かされました。
フネさんはもう真っ直ぐに立つことができない。甘えではなく、ほんとにちょっとした事で痛みが出るし、立ち上がって移動するのも大変な事だったんだなって。そして先生は次の治療でフネさんに向かって言っていました。


「フネさん、今日から少しずつ運動と歩くための訓練をしていきましょう。痛かったら我慢しないで言ってくださいね。ケガをする前の状態には戻らないかもしれませんが、必ず自分の足でしっかり立って歩けるようになりますから。私と一緒に頑張りましょう。」


この先生は話口調がとても優しく穏やかで、今の状態から今後の治療方針までとても丁寧に説明してくれるんです。リハビリも、ちょっとしたことでも褒めてくれるし出来なくても大丈夫だと励ましてくれる。

リハビリを始めてからフネさんはみるみる回復していきました。自分で動けるようになると先生に言われた事で自信がついたのでしょう。顔色もよく、家でも動ける範囲で身体を動かしているようです。フネさんのやる気に必要だったのは叱ることではなく今後の目標を明確にして優しく励ますことでした。

まだ道のりは長いですけどね。今日、病院で先生が言ってくれました。


「フネさん、もう6割は回復してます。とても回復は早いですよ。まずは家の中を自由に動ける事を目標にしましょう。」


自分が当たり前にできることができない人もいる。
ましてや高齢になれば頭でわかっていてもどうしてもついていけない事だってたくさんあるはず。
でもそれが身内だと余計にモヤモヤしてつい厳しくなってしまう。それは心配からくることもあるんだけど、一度出来ないということを認めて、そこからどうするかの対処法を一緒に見つけなければダメなんだな。

先生、気付かせてくれてありがとう!

仕事中に、お年寄りの歩行補助のためのカートをおぼつかない足取りでヨタヨタと押しながら、後ろからこれまたヨボヨボと着いてくるおじいさんに向かってダメ出しをしているおばあさんを見かけて、近い将来のフネさんと波平さんみたいだなって思って笑ってしまった。

共に白髪の生えるまで。