世の中の大抵の事は大したことない

なまけものが書きます

【小説】群星のルール(中編)

「おいっ!ちょっと待てよ!何やってんだよ!」

俺は考えるより先にそいつに向かって叫んでいた。
誰もいないと思ったのだろう。そいつは一瞬びくっと肩を上げたがすぐに妙に落ち着いた声で言った。

「悪いんだけどほっといてくれる?別に君には関係ないだろ。」

『うーん、確かに』とちょっと思ってしまってから、慌てて否定する。

「バカかっ!そんな場面見て『はい、そうですか』なんて言えるわけないだろ!と、とにかく話をしようよ。」
「話?僕と話をしたいの?」
「そ、そうだよ。とりあえず話そう。それからでも遅くないだろ?」

正直話すことなんて何もない。それどころか今日ここに来てしまったことを後悔し始めていた。面倒なことになったぞ。
それでもそいつは今すぐ飛び降りることは思い止まったようだ。手すりから降りて座り込む。
俺はほっとしながらもいろいろ考えを巡らせ、とりあえず無難な質問をしてみた。

「お前、今いくつ?」
「16。高1。」
「えっ?まじ?一緒じゃん!どこの高校行ってんの?」
「○○高校。」
「はぁ?マジで言ってんの?俺と同じ高校じゃん!すげぇ!」
「知ってるよ。」
「えっ?」
「知ってるよ。君、3組でしょ。」

しまった!こいつ俺の事知ってたのか!
気ぃ悪くしてないかな……

「あー、そーっか。あー、で、お前は何組なの?」
「3組だよ。」
「………………はいっ?」

うわぁ~っもう完全やっちゃってるじゃん!
なんだよ!こんなヤツクラスにいたっけ?
やばい、全然名前出てこないわ。

「別にいいよ。知らなくても。もう関係ないし。」
「ちょっと待てよ。ほら、うちの学校人数多いしさ、俺あんまし周り気にしないからさ。」
「…………」
「で、なんでその、なんてゆーか、そんなこと、ってゆーか……」
「自殺なんかしようとしてるかって?」
「お、おぅ。」
「あのさ、僕いてもいなくてもいいんじゃないかって思うんだよね。クラスでもさ、友達いないし。存在感ないしね。家でもさ。親はさ、兄貴がいればそれでいいんだ。」
「そ、そんなことねーだろ。友達なんてさ、作ろうと思えばいくらでも……」
「君だって僕の事知らなかったじゃん。」

マズイ……話題を変えよう。

「あ、でさ、どうやってここ来たの?」
「鍵、開いてた。」

あれ?開けっ放しちゃったか?

「そ、そうなんだ。お前家どこなの?なんでこのマンションに来たの?」
「僕、ここのマンションに住んでるから。」

やべぇ。終わった………。スリーアウトだわ………。

「ね?そう言うことだよ。僕なんかいなくなっても誰も困らないだろ。さ、もう邪魔しないで。君はもう帰った方がいいよ。」
「ちょ、ちょっと待てよ!お、俺が……俺が友達になってやるよ!……じゃなくて俺と友達になろうぜ」

ビックリした。まさか自分の口からそんなセリフが出るなんて!相手も俺のこの言葉には面食らったようだ。一瞬目を見開いてまたすぐに元の真顔になった。

「いいよ。別に。君、友達たくさんいるじゃん。それにムリにそんなこと言わなくていいよ。」
「ムリとかそんなんじゃねぇよ。勝手に決めんなよ。お前、なんかおもしろそうだし、そうだな試しに一週間友達やってみようぜ!」

なんだこれ?なんか俺ムキになってね?
否定された事にカチンときたのか?
でも言うに事欠いて一週間の友達ってなんだよ。

ところがあいつは、俺のそのヘンテコリンな提案が気に入ったみたいで意外な事を言い出した。

「一週間か。それ、おもしろそうだね。わかった。それ乗っかるよ。その代わりひとつだけ条件。その期間中は友達は僕だけだよ。いいね。」
「え?よし、わかったよ。じゃ、とりあえず今日は帰ろうぜ」

そんなわけで俺とあいつの奇妙な友情が始まったんだ。

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突然今まで全く知らなかった、クラスでもいるのかいないのかわかんないような地味なやつと友達になった。なんだかヘンな話だ。そもそも友達ってそうやってなるものなのか?

その日は布団に入ってからも明日からの一週間、どうやってあいつと過ごそうかなどとぐるぐると考えを巡らせてしまって、なかなか眠れなかった。いつもならこんな事面倒だとしか思わないのに、何故だかあいつのことが気になって仕方がない。自殺しようとしてる奴に初めて遭遇したからか?それともそれを、俺が止めたという優越感なのか?ま、考えても仕方ない!もう寝よう!


次の日、案の定寝坊した俺は余計なことを考える間もなく学校へとチャリを飛ばした。途中何度か危ない思いをしながら、なんとかギリギリセーフ!
慌てて飛び込んだ教室でまず最初にあいつと目が合った。あいつ、ほんとに同じクラスだったんだ。

「おいっおめーおせーよwwヘンなビデオ見すぎだろwww 」

いつものように茶化すツレを適当な返事で流し、まっすぐにあいつの所へ。

「おぅ、おはよう。」
「………おはよう…………」
「今日部活ないから学校終わったらゲーセン行こうぜ」
「…う、うん。いいよ。」

ちょっと警戒するように上目使いであいつは返事をする。やっはり友達がいないってのは本当みたいだ。

その日の授業は正直よく覚えてない。放課後あいつをどこに連れて行こうか、そればかり考えていた。
なにコレ、俺わくわくしてる?